インタビュー

アラブの春でシリア渡航を断念、海外キャリアの道が閉ざされる

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大学院生時代に、ライターのキャリアが開けた

大学院には「社会人大学院生枠」という制度を使って入学したものの、仕事をしながら単位を取るのは至難の業でした。今どきの大学のカリキュラムはグループワークが多くて、拘束時間が非常に長いからです。誰のための制度だよって感じですよね。

でもそこは社会人。法律や制度のギリギリを狙う習慣がついていたので、シラバスを徹底的に読み込み、半年で全単位を取れる時間割をつくり上げました。他学部受講という制度を利用して、経営学研究科の経営戦略の授業や、人文学研究科のアラビア語購読の授業なども受講しました。

半年の学生生活の中では、懐かしい先生方にも再会しました。僕は学部生のころ有名人だったらしく、先生方が覚えていてくれて、よくしていただきました。学部生時代よりも濃密なコミュニケーションを取ることができるようになった気がしています。

そんな中、先生方から「建築学生とこれからの仕事のはなし」というレクチャーを学生の前でする機会を与えていただきました。せっかく苦労してプレゼンスライドを作るならと思って、学生だけでなく学外の人も参加OKにしてもらいました。集客はtwitterで行って、ハッシュタグを使っての実況つきです。

会場や打ち上げには日経アーキテクチュア記者の樋口智幸さん、建築ジャーナル編集者の山崎泰寛さんなどが来てくれました。皆さん僕のtwitterやブログの記事を読んでいてくれて、実際のところを確かめに来たというのもあったのかもしれません。

これをきっかけに、日経アーキテクチュアからライターとしての初仕事「顧客をつかむ新・建築マネジメント」の打診を受けました。最新のマネジメント動向を設計者向けに紹介する連載記事です。

建築ジャーナルでも「実務者のためのマネジメントブックガイド」という、建築技術者向けおすすめ本の連載コラムを依頼いただきました。ネットを通じてライターのファーストキャリアが築かれていたわけです。

建築ジャーナルでの初めての仕事。

建築ジャーナルでの初めての仕事。

どちらも実務系の記事でしたが、取材先を選ぶこともできたので、元実務者として外から最新事例を観察することができました。この時の視点が今の企業広報の仕事に活きていて、業界でのポジショニングを意識しながら企業活動の強みを発信する力につながった気がしています。

必要な単位が半年で取れたので、神戸の家を引き払い、生活費を稼ごうと東京で再びCMの仕事を探し始めました。平日が空いていないと研究できないので、週3日ぐらいの仕事を探したんですが、見つからなくて困りました。サラリーマンをやめたら完全なフリーランスになるしかないのは生きづらいなと思ったのは、その時が最初です。

この時に感じた不便さにはその後も何度か直面することになり、フリーランチの使命の一つになりました。

シリア渡航直前に内乱が発生、海外キャリアの道を諦める

大学院2年目となる2011年度は、シリアに滞在しながら修論を書き上げるつもりでした。IFPO(フランス近東研究所)所属という形でビザを発行してもらうことにして、準備を進めていました。でもそのころからシリア情勢が不穏になってきて、2011年3月にはIFPOと連絡が取れなくなってしまったんです。メール送っても返事が来ない。

アラビア語購読の授業でお世話になった中東に強い研究室にヒアリングしてみると、シリアにいた日本人留学生達はみんな帰ってきていたことがわかりました。帰国してきた人と5月ごろにやっと連絡が取れたのですが、「通信が遮断されていてメールが見られなくなっているし、電話もつながらない。IFPOも人がいなくなってるよ」と。アラブの春が飛び火して、シリアも内戦がはじまってしまったのです。

大学院に戻る時の大前提だった、海外キャリアへの道。悩んだんですが、6月にシリア行きを断念しました。このころはまだフリーランスではなく、組織に所属してBtoBで面白いことをしようという意識だったけど、前提が壊れたから大学院を出た先の仕事もなくなっちゃうわけです。こんなにリスクを負って入学したのに、留学用の奨学金ももらってたのに、参ったなと。

ただ論文を出さないことには修士号が取れないので、仕方なく最初にシリアに行ったときの資料を基礎資料として論文を書くことにしました。不幸中の幸いで資料を大量に持ち帰っていましたし、番匠谷尭二という都市計画家が60年代にダマスカスの計画に関わった時の現地調査の記録が、国会図書館やJICAに残っていたんです。

ダマスカス旧市街。

ダマスカス旧市街。

ダマスカス旧市街地図。

ダマスカス旧市街地図。

論文のタイトルは「持続的開発における民間資本の活用の可能性に関する研究 −シリア・アラブ共和国首都ダマスカスを事例として−」。

文化財保存って、経済的な便益を追究する開発との相性が悪いでしょう。ダマスカスのような旧市街や日本の伝統的建造物群保存地区のような場所では、所有者が建物を更新していければいいんですけど、原資を調達できずに空き家のまま放置されているような状況があります。僕は仕事では証券化物件をやっていたので、証券化でよく使われていたファイナンスの考え方を使って、古い町並みを保存することはできないかなと考えていたんです。

会計学には、「無形資産」という概念があります。たとえばブランドのように、形はないが明確な価値があるもののことです。歴史的な建造物にも無形資産性はあると思うんです。うまくリノベーションして収益を上げている古い建物ってたくさんありますよね。この論文では伝統的な建築物が有する価値を「無形資産」として、お金を貸したり、評価したりするようなシステムについて研究しました。

(取材・文 たかぎみ江)

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