インタビュー

設計部から異動して監理部へ、現場に出たら設計事務所の弱さがわかった

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建築設計事務所に就職して初めて実施設計というものをやってみたら、わからないことがたくさんありました。たとえば、設計の初期の段階では壁厚を200mmなど仮の数字で設計を進めるのですが、なぜ200mmなのかがわからなかったんです。実際には躯体と呼ばれるコンクリートの壁に、石膏ボードを貼って、塗装やクロスで仕上げをすると全部で200mmぐらいになるからなんですが、当時はそのイメージが具体的にできなかったので苦しかった。

設計者の立場を捨てて、工事監理者へ

建築設計の仕事を2年しても現場のシーンがほとんどイメージできないのはまずいんじゃないかと思って、現場を見る機会をつくるため、監理部に行きたいと希望を出しました。監理というのは設計図のとおりに施工されているかをチェックする仕事です。工場に行って製品の検品をしたり、建設現場に行ってコンクリートの配筋を検査したりもします。

コンクリート打設状況の検査

コンクリート打設状況の様子。図面と違わず施工されているかをチェックするのが監理の仕事。

周りからは「設計やりたくないの?」とか「そんなところ行ったら片道切符だよ」とか言われて止められたんですが、監理部に配属された同期が設計者に比べて確実に社会人としてスキルアップしていたのを見ていたので、迷いはありませんでした。

現場のことを何も知らずに異動したものの、現場では知識がないと全く相手にされません。建設会社の現場監督は修羅場をくぐってきた数が違うし、気性の荒い職人をまとめるわけなのでさすがに腹が据わっています。対人スキルも全くかないません。

設計図のミスは設計部の責任であっても、現場で矢面に立つのは監理部の人間です。建設会社との信頼関係がきずけておらず、設計事務所の言うことを聞いてくれないこともあります。雰囲気を悪くしてしまうと、いざ致命的なミスがあったときに全く聞く耳を持ってもらえなくて、針のむしろのような現場もありました。

技術もない、信頼関係もない。それで今まで以上に論理的にふるまう必要が出てきました。「これ違うんじゃない?」みたいな言い方ではなく、「この監理指針や標準仕様書に基いて進めなさいと設計図に書いてあるから、その通りにやりましょう」と言わなければならない。

でもそれができるようになったら、現場でコミュニケーションをとれるようになりました。何かを判断するときには、設計の仕事で身につけた申請や法規の知識を基準にすれば、設計部に問い合わせなくても解決できるようになった。自分がそこにいる理由が徐々にできてきました。

監理の仕事をしていると、建築の成り立ちが日に日にわかるようになっていきました。断熱材の吹付けは実際にどうやっているのか自分の目で確かめることができるし、配筋検査やコンクリートの圧縮試験などの建物の品質管理の検査も見ることができますからね。

職人さんと話ができるのもよかったです。周りに聞ける人がおらず、職人さんに差入れを持っていて、教えてもらったこともありました。そういう監理者はあまりいないみたいで、いろいろ教えてくれました。職人さんとの雑談から手がかりを得て、施工のミスを発見したこともありました(笑)。

モックアップ(実大模型)検査

モックアップ(実大模型)検査の様子。

建築は人が作っているものなので、やっぱりミスはあるんです。でも建築生産のしくみは、そういうエラーがあることを前提で組み立てられていないと感じました。建築は工業製品と違って人の手を介するオーダーメイドだから、必ずミスがあるという前提で考えないと、お客さんを間違った方向に導いてしまう危なさがあると思いました。そしてそういう時こそ、技術者として正しい解答を導かないといけないということも。

建設現場では、設計事務所のオフィスにいてもわからないことをたくさん学びました。設計事務所では設計者は優遇されていますが、現場に来てみて設計事務所の力のなさも感じましたね。現場事務所は1つの会社みたいなもので、何もない土地からスタートして、事務所を借りたり、弁当屋を選んだり、自販機業者とやりとりしたり、そんなことも含めて建設の現場を自分の目で見て、いろんなプレーヤーのマインドを知れたことは、社会人としての視野を広げてくれました。

その当時は全く意識していませんでしたが、20代で設計と監理の両方を経験していたのは、のちに転職市場でのアドバンテージになりました。

(取材・文 たかぎみ江)

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