会社を設立したり社員を採用したりすると、社会保険の手続が必要になります。
設計事務所や工務店を経営している方の中には社会保険加入に前向きであっても相談できる相手がいない、具体的にどうしたらいいか分からないなど、悩んでいる方も多いかと思います。
この記事では設計事務所や工務店の経営者や事務担当の方向けに必要な手続きやタイミングを分かりやすくまとめています。また、社会保険未加入だった工務店が実際に加入勧告を受けたエピソードも紹介しています。
社会保険の手続きが発生するタイミングと未加入の工務店に来た加入勧告
会社を設立したり社員を採用したりすると社会保険の手続が発生します。設計事務所や工務店を設立したときは会社自体の社会保険加入手続きが必要です。そして社員を採用した場合はその働き手の社会保険加入手続きが必要です。
社会保険未加入の場合、日本年金機構から加入勧告を受けたり、立ち入り調査が行われたりする場合があります。さらに法的措置による強制加入などもあり得ます。また、社会保険加入を拒むなどした場合、2年間逆上って社会保険料を徴収されることもあるようです。
私の勤める小さな工務店は社会保険未加入だったため、日本年金機構の加入勧告を受けました。日本年金機構から手紙と電話と訪問があり、会社の役員が先方に出向いて面談を受けました。
近年こういった取締りは厳しくなっています。そのため、加入勧告を受けた場合は、小さな工務店や設計事務所であっても社会保険を未加入のままにはできないようです。
社会保険は3つの保険から構成されていて社員が会社から報酬を貰っていると加入が必要
社会保険は健康保険と厚生年金保険と介護保険で構成されています。社会保険料は働き手と会社が半額ずつ負担します。
健康保険 | 厚生年金保険 | 介護保険 |
業務以外のけがや病気、出産、死亡などに備える保険 | 高齢となった時、障害を持った時、死亡した時に本人や遺族に一時金を受給する保険 | 介護が必要になったときに介護サービスを受ける保険。40歳以上の方が加入 |
設計事務所や工務店が法人で会社から報酬を貰っている方がいる場合は、社会保険に加入する必要があります。
例えば所長1人の設計事務所で役員報酬を設定していない場合などは、原則として社会保険に加入できません。また、個人事業所の場合は従業員が5人以上いる場合に加入義務が発生します。
パートや学生アルバイトであっても社会保険の加入対象になる場合も
設計事務所や工務店で雇用している方が社会保険に加入できるかは、就労形態や労働時間によって決まります。
就労形態 | 健康保険 | 厚生年金保険 |
法人代表・役員 | 条件で加入対象 | 無条件で加入対象 |
正社員 | 無条件で加入対象 | 無条件で加入対象 |
時短やフルタイムでない場合 | 所定労働時間・労働日数ともに正社員のおおむね4分の3以上、かつ契約期間が2か月超えで加入対象 | 所定労働時間・労働日数ともに正社員のおおむね4分の3以上、かつ契約期間が2か月超えで加入対象 |
学生アルバイト | 所定労働時間・労働日数ともに正社員のおおむね4分の3以上、かつ契約期間が2か月超えで加入対象 | 所定労働時間・労働日数ともに正社員のおおむね4分の3以上、かつ契約期間が2か月超えで加入対象 |
(介護保険は40歳以上で加入)
役員や正社員の方は無条件で社会保険の加入対象者となります。また、学生アルバイトの方の場合も、労働時間や契約期間によっては加入対象者になります。
設計事務所や工務店を設立した時の社会保険の加入手続き
法人として設計事務所や工務店を設立した時は、会社自体の社会保険加入の手続きをします。健康保険と厚生年金保険はあわせて手続きを行うため、以下の書類を年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 登記事項証明書の原本(発行から90日以内のもの)
- 法人番号が確認できる通知書のコピーなど(事業主が国、地方公共団体、法人である場合)
- 保険料口座振替依頼書(口座振替を希望する場合)
加入手続きに必要な書類は、管轄の年金事務所で受取れます。または日本年金機構のウェブサイトから手続き別にダウンロードもできます。
書類の提出期限は会社が成立してから5日以内と短くなっています。間に合わなくても手続きはできますが、その場合も早めの手続きが望ましいです。また、提出が遅れた場合は別途書類が必要です。
また、会社の設立と同時に働き手を雇用する場合は、あわせて働き手の方の社会保険加入手続きも行います。詳しくは次の項目で解説しています。
社会保険の加入対象者を雇用した時の手続き
社会保険の対象者を採用したときは、採用日から5日以内に以下の書類を年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者届(配偶者や子供を被扶養者とする場合)
- 国民年金第3号被保険者関係届(配偶者を第3号被保険者とする場合)
また上記の書類作成のため、働き手本人の年金手帳を預かり基礎年金番号を確認します。また、配偶者を被扶養者にする場合は、配偶者の方の年金手帳も必要です。
書類を提出すると健康保険被保険者証が交付されるので、すぐに本人に引き渡します。
社会保険の加入によって企業としての信用を得られ採用活動で差がつけられます
現在も建築業界は社会保険未加入で違法状態の設計事務所や工務店などが少なくありません。しかし近年は社会保険未加入への取締りが厳しく、また知識のある働き手もそういった会社を敬遠する流れができつつあります。
設計事務所や工務店は社会保険に加入することによって、しっかりと法律と働き手を守る姿勢を示せるため、企業として信用が得られます。また、賢い働き手は社会保険未加入かどうかをチェックするので、採用活動においてもアドバンテージを得られます。
法人で会社から報酬を貰っている方がいれば、社会保険に加入しなくてはいけません。手続き書類の提出は会社設立後5日以内と短いため、設立準備と並行して書類を集めるなどの準備をしてください。
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