コンストラクションマネジメントの仕事を始めてみて、いかに事業主が既存の建築生産システムに不満を持っているかがわかってきました。もっともコンストラクションマネジメントを専業とする会社に来るのはそういうお客さんだからというのはあるんですけどね。それで建設プロジェクトの生産システムのあり方について、本格的に考えるようになりました。
建物の発注者が建築生産システムに疑問をもっていることがわかった
僕が組織設計事務所にいたときのプロジェクトは、「設計・施工分離発注方式」がほとんどでした。設計と工事監理を組織設計事務所が担当し、施工をゼネコンが担当するというやり方です。設計事務所がいて、ゼネコンがいる、それが当たり前だと思っていました。
ところがCM会社の立場になると、ゼネコンに設計・監理・施工を一括でお願いする「設計施工一括発注方式」も選択肢に入れることができます。プロジェクトの性質に応じて、事業主にとって一番ためになる発注方式を選ばなくてはいけないということに気がつきました。
よくよく考えてみると、設計事務所時代に僕が担当していたショッピングセンターでは、事業主であるショッピングセンターの運営会社が、得意な人に得意なことを発注し、コンストラクションマネジャーのような立ち位置で統率するような形をとっていました。設計者は基本設計までで、運営会社の仕様書を添付して、実施設計から設計施工者としてゼネコンを選定する。
だから建設プロジェクトにコンストラクションマネジャー的な立場の人を置き、プロジェクトの特性に応じていろんな会社に発注するメリットを僕は早く理解できたのだと思います。
コンストラクションマネジャーとして、建物発注の最前線に
コンストラクションマネジメントの仕事を実際にやってみると、そういうやり方が普通に行われる世の中になってきていると感じました。自分が新しい発注の考え方の最前線にいることに気づいたのです。
そうやって事業主の多くが「設計・施工分離発注方式」という決まったやり方だけでなく、プロジェクトにとって最適な発注方式を選ぶようになれば、建設のしくみはまるで変わっちゃうだろうなと思いました。
そうなれば、設計者の仕事の仕方も変わります。これまでのように設計者が基本計画から竣工まですべてのプロジェクトで同じように関わる意味はなくなってきて、一つの設計会社があるプロジェクトでは実施設計までやり、別のプロジェクトではデザイン監修だけする、みたいなことも普通に起こるようになってくる。
そういう時代にこれまでと同じ姿勢のままでいたら設計事務所の立場は危ういなと、元設計者として危機感を覚えました。今はわりと当たり前になってきていますが、2008〜2009年当時は設計事務所時代の元同僚にそんな話をしてもピンとこなかったみたいです。
建築現場の最新情報をブログで発信
ブログ「建築現場の歩き方」にも、こういう建設プロジェクトの生産システムをテーマに記事を書くようになりました。当時はネット上にその手の記事は少なかったので、検索サイトでも上位にヒットしてました。twitterのサービスが始まると、ダイレクトな反応ももらえるようになりました。twitterで意見交換ができる良い時代でした。
勤め先は小さい会社だったし、コンストラクションマネジメントという職能にはこだわりが強くない会社だったので、自分としては危機感を持ちながら仕事をしていたのでしょうね。そんな時にネットを通じて建設生産システムについて考えることができる仲間に出会えたのはすばらしかったです。
このコンストラクションマネジメントの会社では、マネジメントの奥深さはもちろん、建設プロジェクトの生産システムを一から学んだと思います。発注を学ぶと業界全体を俯瞰する視点ができてきて、これまで経験してきたことが、何から何まで新鮮に見えてきました。
お客さんにも恵まれました。外資系企業が多かったんですが、当時すでにコンストラクションマネジメントという職能を知り、使っていたぐらいだから研究熱心で、他のビジネスと同じように真っ当に建設プロジェクトを回したいという気持ちがある人ばかりでした。たとえば慶応の商学部を出て投資銀行に勤め、アメリカの大学でMBAを取得して、今は外資系の不動産投資会社でアセットマネジャーをしているというような、本物のエリートたちに出会いました。
自分よりはるかに頭のいい人たちが高度なビジネスをしているところを目の当たりにして、建築・不動産を通じて会える人にもまだまだ面白い人がいるんだなと思って、この仕事がますます好きになってきていたんです。
(取材・文 たかぎみ江)