出版企画

はじめに:仕事を辞めても死なないために

○仕事を辞めるとどうなるのだろう?
もし明日、仕事を辞めたらどうなるだろうか?
退職したその次の日から、貯金を食いつぶす生活がはじまる。会社を辞めても日々の請求書はやってくる。年金や健康保険、家賃や光熱費など生きるために支払うコストがけっこう高い事に気づくだろう。

数百万の貯金、貯めるのはあんなに時間がかかったのに、失業するとあっという間に減っていく。預金通帳の残高をみて、「あぁ、あと何ヶ月で食えなくなるなぁ」なんて考えたりするわけだ。給与であれ、業務委託による収入であれ、入金がない月が続くのは、何度味わってもメンタルに宜しくない。

収入の手段が絶たれた場合のセーフティネットは存在するが、そんなに頼りになるものではない。毎月払っていた雇用保険も、失業給付金を受け取るためには手続きが存在するし、多くの場合、約3ヶ月は給付金を受け取る事ができず、無収入で過ごさなくてはならない。失業給付金には救済措置も少なからず存在するのだが、救済措置を利用するためのエビデンスは在職中でないと用意できないものが多い。

何の準備もなく会社を辞めた場合、退職前と退職後の生活の間にそれなりのギャップが存在し、現実の厳しさに直面する事になる。まずは退職するとどうなるかをイメージできるようになって欲しい。適切な準備をすれば、そのギャップは緩和することもできる。

○ワークライフバランスって実現できないのかな?
会社とともにwin-winで生きていく事はできないのだろうか?懇親会やオフ会で会う若手ビジネスマンの最大の関心事は転職に関するトピックだ。会社をやめたらどうなるか想像できないし、想像できないせいで会社を辞める事を過度に怖れているようだ。

ワークライフバランスという問題に対し、会社と個人の間に線を引きすぎたり、対立するという考えには個人的には賛成できない。僕自身、仕事からたくさんのものをもらってきた。コンストラクションマネージャという仕事を通じて、土地を仕入れ、事業性という観点から建物を建てる事をジャッジし、建物を建てる為の枠組みを考え、コントロールするというスリリングな経験をした。これは、エージェントに紹介してもらい、転職でこの仕事に巡り会わなければできなかった経験だ。

他方、ブラックな面も存在する。残念ながら建築・不動産業界は、もう20年も停滞している。長く停滞している業界が単年度の業績だけ威勢のいい数字目標を掲げ、それを達成するために上司が部下の尻を叩き、パワハラにいたるなんて構図はどこの会社のどの部署でもみられる。会社はつぶれないが、確実に職場環境は悪化した。業界全体としては「ブラック気質」なのかもしれない。

ブラックな環境にいると正常な判断ができなくなるし、今いる環境が異常なのか、自分が異常なのかすらわからなくなる。正常な判断ができず、動けなくなるまで働き、病院に運び込まれてそのまま退職した同僚をたくさんみてきた。彼らに手をさしのべる事はできなかったけど、これからの世代に手をさしのべられればいいと思う。この本は、長い社会人生活の中で、元気なときはよりアクティブに、しんどいときにはよりパッシブに生きる為の本である。

会社で働くという経験には、ホワイトな面もブラックな面もあった。調子の良いときは、会社と一緒にガッチリ稼いで Win-Win の関係を築けばいいし、調子が悪くなったらたくさんの選択肢から逃げ道を選べばいい。それが本当のワークライフバランスなんじゃないだろうか。何もかも会社に負担を求めるのも現実的でないし、全てのリスクを個人が負うのも現実的ではない。

公的な救済措置をはじめとした色々なサポート手段や制度は存在する。会社と対立関係に持っていく必要はない。状況に応じて、誰にとっても良い逃げ道というのは存在するのだ。この本は、法人(会社)と個人という二つの人格をつなぎ、安心して生きる為の本だ。

○世の中は案外ゆるくできている
好むと好まざるにかかわらずなんらかの収入創出活動は必要だし、多くの人にとってはそれが働くという言葉と同じことを意味する。できれば健全な状態の時にしっかり働きたいし、しんどい時には休みを取れる体勢をつくりたい。前向きな期間を長くして、撤退期間を短くできればさらによい。

人間は機械じゃない。30~40年という長い期間、なんのアクシデントもなく平坦な人生を送る方が難しい。何かしらのアクシデントが起きると考える方が自然だ。この本では、長い会社員生活の中で遭遇するであろう、見えるリスクは可視化し、見えないリスクには最低限の備えをするよう示した。

いろんな生き方があってもいいと思う。社会に出る前の僕は、会社につとめるか、起業するかしか選択肢を知らなかった。派遣社員やフリーランスのような中間色の働き方も知らなかった。結婚で住み慣れた地域を離れたり、子育てしながら時間を限定した働き方もある。また、世の中にはけっこういい加減な人がいて、いい加減な人のための制度も存在する。会社でコンプライアンス対応でガチガチに固められた制度ばかりに目を向けていると、そういった許されるべき世の中の「ゆるさ」に気がつかなかったりする。

会社員生活もしんどいし、フリーランスもそれなりにしんどい。でも、しんどさの種類や楽な面も確実に存在する。この本には一度の失敗やアクシデントで死なない為の選択肢を書いたつもりだ。あなたの現在のコンディションにあった働き方を選択し、会社と共に生きる方法を模索していってもらえればうれしい。